決済サ−ビスは社会インフラとして重要な役割を担っており、その時代の取引慣
行,制度及び経済情勢などを反映しつつ、利用者ニ−ズの変化に対応して、変化し
てきた。今日においては、高度な技術の発達と、コンピュ−タの一般への普及によって
社会が変化しつつある。また、人々のライフスタイルの多様化によって、決済サ−ビスの
多様化が求められており、決済サ−ビスを提供している銀行もサ−ビスの多様化が
求められている。
現在、銀行はコピュ−タシステムの稼働時間の延長や、ファ−ムバンキングの土・
日,休日の稼働など、多様化にむけて取り組みはじめている。しかし、まだ十分
な対応をとっているとは言えないのではないだろうか。
電子マネ−への取組についても、モンデックスといった海外での電子マネ−で
は日本のメーカーの技術が使われているにもかかわらず、日本では実用に向けたこ
れといった電子マネ−が今のところでてきていない。長らく保護行政に慣れた日
本の銀行は、競争でディファクトスタンダ−ド(事実上の標準)を取られる恐ろ
しさを分かっていないという意見もある。しかし、本当に日本の銀行の対応は
時代の潮流を認識していないものなのであろうか。
日本の銀行は、電子マネ−に対して、様子見的な姿勢であるといわれるが、
欧米のような小切手代替のための電子マネ−というのは、日本の支払い形態を
考えれば(資料15を参照。)、導入しても採算が合わないことが分かる。日本の
社会では、一般の生活者が買物で小切手を使うことは少ない。また、最近は
コンピュ−タが一般に普及したといっても、先進諸国に比べると、決済のインフラ
ストラクチャ−としてのコンピュ−タの台数は日本は少ない。また、日本ではATM網
が津々浦々まで張り巡らされており、自動引き落しのシステムも整っている。したが
って、電子マネ−による利便性をどこまで人々が感じるかということに関しては、
一概に外国と比べられない。日本の場合は、既存の決済手段に関する設備が整ってい
るため、人々が新しい決済方法に利便性をあまり感じない状況にあるのかもしれな
い。
日本の銀行の対応は、電子マネ−だけでなく、本稿で扱ってきた決済手段全般
にわたって、短期的に見れば確かに採算性を重視したものであり妥当かつ合理的
な対応であるといえ
る。しかし、人々の生活は多様化しており、決済に対するニ−ズも変化している。
このため長期的に見た場合には、日本の銀行は海外の銀行に比べて、多様化する
ニ−ズに対応し
たサ−ビスを提供できておらず、現在のような対応では孤立化する可能性もある。
確かに、日本の銀行の中には早くから、新サ−ビスの提供に向けて取り組んでい
るところもある。また全ての銀行が情報技術に対応した業務内容を展開する必要
はない。さらに新たな顧客へのネットワ−
クサ−ビスを多様化することは、多額の投資が必要であり、採算が見合うと判断し
た銀行が、差別化のためにも取組めばいい問題である。
日本の産業界でみると、ICカードなどの技術力は世界でトップの水準を誇ってい
る。日本の銀行は、他業種との提携、アウトソ−シングなどによって、いかにニ−
ズに合ったサ−ビスを作り出すかということが今後の課題になると思われる。その
ためには、乏しいとされる商品開発力を強化していくべきである。
政府は、オープンネット上での資金移動取引や24時間対応の資金移動取引を
可能にするために「銀行法による通達」での規制を撤廃すべきである。ただ撤廃
するだけではなく、新しくネットワークを前提とした、安全面を十分に考慮した
内容の法律を作成するべきである。政府には早急な対応が求められている。