日本の銀行も、個人取引強化のための一環として新ペイメントシステム,インタ
−ネットによる銀行サ−ビスの提供に取組みはじめている。
新ペイメントシステムへの取組としては、ICカ−ドを利用したものが多い。大手
都市銀行は各行とも、実験を行っている。最近では、富士銀行、さくら銀行、第一
勧業銀行の3行が共同で東京ファッションタウンで規模10000人の実験を19
96年4月から行っている。その特徴は、3銀行共通仕様のICカ−ドによるキャッ
シュレス機能である。また、多機能カ−ドであり、銀行POSと前払金入金方式であっ
た。多機能カードにはテナントビル管理機能と決済機能を組合わせてある。
また1997年4月からは、あさひ銀行と松下電気産業が早稲田大学の構内でICカ
−ドを利用した実用実験を始めると伝えられている(日本経済新聞1997年1月9日よ
り。)。実験の対象は早稲田大学の学生約5万人で、国内の電子マネ−実験では最大
規模になる。銀行のキャッシュカ−ド,プリペイドカ−ド,身分証明書を兼用できる
ICカ−ドを発行し、大学内で使えるようにし、実験が進んだ段階でカ−ド同士での
資金のやり取りや外部の店舗での利用も可能にさせる計画である。
日本の銀行の取組は、まだ実用実験のレベルにあり、限られた環境の
中でのみ利用できるかたちのものである。
一方、インタ−ネットを利用して、各種の銀行サ−ビスの提供の実験を始める銀
行も出てきている(日本経済新聞1997年1月12日より。)。第一勧業銀行、あさ
ひ銀行、さくら銀行、日本長期信用銀行、北陸銀行、横浜銀行は、富士通と共同で
インタ−ネット上での銀行サ−ビスの提供の実験を行う。複数銀行間での口座振替や
新規口座開設など、あたかも現実の銀行支店やATMを利用している感覚で操作できる
システム作りを始める計画である。1997年1月13日から、新規口座開設や
住所,電話番号変更などの業務実験を始める。その結果を踏まえて、4月以降インタ
−ネット経由での電子マネ−の発行、決済サ−ビスの提供や、複数の銀行間での
資金移動を伴う口座振替サ−ビス実験なども始める。
次に、日本で電子マネ−を導入するにあたって、現行の法的な検討点を考えてみ
る(以下、眞壁修(1996)を参考にした。)(資料14参照)。オ−プン
ネット上で資金移動取引を行うことは、現行法制上の考え方では「銀行法による通達」で規制されている。セキュリ
ティ維持のため万全を期すことが要請され、専用回線の利用等が条件とされている。
自己預金口座との自由な出入れは、「出資法」では、預金以外の元金を保証した
預り金を禁止しており、「プリペ−ドカ−ド法」では、解散など不可避的な事由以
外の返金を想定していない。決済資金として転々流通するためには、金銭債権譲渡
であれば指名債権譲渡として確定日付が必要である。汎用性については、「紙幣
類似証券取締法」では、通貨の定義として「いつでも、どこでも、何にでも使える
こと」が指摘されており、無制限な汎用性は同法に抵触する可能性があるとされる。
また、「通貨」には時効は無いが、電子マネ−が通貨ではなくその他の債権と定義さ
れた場合には、時効がそれぞれ決まる。いずれにせよ、新しい電子的なペイメント
システム導入と普及に向けては、現行の通達や法に抵触する可能性があり、抵触す
る場合には通達や法律の改正、または例外規定を設ける必要があるといえよう。ある
いは、むしろ抜本的に新しい情報媒体(ネットワーク)を前提としつつ、機能に着目
した新しい法律を作る方がより適切であるのかもしれない。
電子マネ−の発行主体を金融機関に限るか、限らないかという問題もある。銀行
は、発行主体となるに適していると思われる。銀行は、現金を用いず空間的に資金の
授受を達成する為替業務を行ってきた。銀行法は為替取引を営業するものを銀行に
限定してきたが、その背景には為替業務が非常に大きな信用を必要とするという認識
がある。このため、現金が電子マネ−に代替されても、大きな信用を必要とするこ
には変わりはない(ここでの議論は、早瀬保行・村田由紀子(1996)を参考に
した。)。例えば、CD・ATMによる送金の場合
、顧客は必ずしもその背後にある銀行の勘定系システムや全銀システム等に対し、
個別に技術的な安全性を認識しているわけではなく、目前のCD・ATMが銀行ないし
銀行組織そのものだという信頼を寄せているからこそ、広く利用されているので
ある。同様に、電子マネ−の場合にも、資金決済への信頼性はそこで使われてい
る技術であるよりも、運営主体に寄せる信頼が重要といえる。そう考えると、従来為替
業務によって信頼を得てきた銀行が引き続き、電子的決済手段を提供することは
自然のなりゆきと思われる。