アメリカでは現在、インタ−ネットのWWW上で各種金融サ−ビスの提供を行ってい
る銀行は、バンク・オブ・アメリカ(カリフォルニア州)、ウェ−ルズ・ファ−ゴ
(カリフォルニア州)、ファ−スト・ユニオン(ノ−スカロライナ州)、シティ・
コ−プ(ニュ−ヨ−ク州)等の大手銀行をはじめ、100行にのぼる(伊藤
穣一,中村隆夫(1996)による。以下の説明もこれによる。)。このうちウェ−
ルズ・ファ−ゴは、WWW
上で、同一の顧客の小切手用の当座預金口座と貯蓄用の預金口座との間の振り替えを
行えるようにするなど、インタ−ネット上で資金勘定口座間の移動ができるような
取組が行われている。しかし、他人の口座への振り込みを指示できる等、営業店と
全く同じサ−ビスを全てインタ−ネット上でできるようにサ−ビスを提供している
銀行は少ない。次にその例をみていこう。
物理的店舗を持たず、インタ−ネット上だけで営業する銀行もで始めてきている。
アメリカのケンタッキ−州の地方銀行カ−ディナル銀行の子会社であるセキュリティ
・ファ−スト・ネットワ−ク・バンク(以後、SFNBと略す。)は、アメリカで初めて
物理的店舗を持たずにインタ−ネット上でのみ営業する銀行として、1995年5月
に認可を取得し、同年10月から年中無休の24時間対応で営業を開始した。SFNBに
はワコビア銀行,ハンティントン銀行などの大手銀行も出資しており、1996年5月
には米国店頭株式市場のNASDAQで株式が公開され、現在はカ−ディナル銀行から独立
している。SFNBは、貯蓄金融機関監督局の正式な許可を得て開業した銀行であり、同
行への預金はアメリカの預金保険公社であるFDICの保険の対象にもなって
いる(つまり、仮にSFNBが倒産したとしても各顧客の預金は10万ドルを限
度に必ず払い戻されることが保証される。)。
SFNBに口座を開設するには、ホ−ムペ−ジの仮想店舗(資料13参照)の新規口座開設用のカウン
タ−をクリックして、申込書に住所,氏名等といった必要事項を記入する。申込書
をプリントアウトし、署名欄にサインをして、新規口座に入金する金額分の小切手な
どとともにSFNBのオフィスへ郵送することで手続きが完了する。アメリカの連邦法の
規制によって、サインのある申込書を保管しなければならないため、オンラインの
処理だけで口座を開設できないが、それ以外はオンラインでサ−ビスが提供されて
いる。
SFNBに決済口座を開設すると、毎月20件まで、口座からの電子送金を行うことが
できる。送金を受け取る相手が電子的な送金を受け取れないような環境にある場合
には、
SFNBが顧客に代わってペ−パ−の小切手を発行し、受取人に郵送してくれる。また、
口座開設者は通常のペ−パ−の小切手を利用することもできる。さらに、口座の開設
者には、普通の銀行で発行されるのと同様のATMで使えるキャッシュカ−ドが送付さ
れる。顧客はこれを使って全国のATMで預金の引出しや残高照会等を行うことができ
る。
SFNBは、通常の銀行の主要な収益源である貸出業務はまだ行っておらず、手数料
収入とインタ−ネット・バンキングソフト技術の他機関へ提供することによる、ライ
センス料を収益源としている。つまり、各種の手数料収入でやっていけるだけの低
コスト体質であることが大切である。SFNBは、ほとんどの業務をインタ−ネット上
で処理し、店舗建設,維持の費用もかからないため、あらゆる経費が通常の銀行の
3分の1程度で済んでいるということである。インタ−ネット・バンキングは、
低コストであるため低収入でも成り立つということである。
SFNBの他にもインタ−ネット上でのみ存在する銀行はある。その中には預金保
険制度に属さないものもあり、もしもの時には預金者を保護できないと思
われるものもある。そのため、イギリス中央銀行のイングランド銀行は、預金者や
投資家が被害を受ける恐れがあると思われる銀行の名前を明らかにして国民に
警告した(日本経済新聞1996年10月16日より。)。
インタ−ネット上での銀行サ−ビスの提供は、利用者にとって便利ではあるが、
その分、十分に通常の銀行との違いも理解しなければいけない。