日本の銀行POSは、フランス、イギリス、アメリカ、ドイツ等の欧米の国に比べて
普及していない。資料12を見れば分かるように、100万人当たり銀行
POS台数は、他の国に比べると数分の一である。その理由としては、イギリスやフラ
ンスにおいては小切手の代替としてのメリットを銀行POSから享受でき、このため普
及しているの
に対して、日本の利用者は小切手の代替というメリットがほとんどないからである。そ
れは、日本の社会では生活者が買物に小切手を一般的には使用しないからである。こ
のような国による違いも含めて、欧米諸国での銀行POSの普及状況を見てい
く(以下の数値は、石崎純夫(1995)による。)。
まずアメリカにおける銀行POS端末機の設置台数は、10万7000台,取引件数は年間
2億8900万件(1992年9月時点,Bank Network News調査)とされている。
多くの端末機は共同ネットワ−クに接続されており、本人確認等はオンライン処理に
よって行なわれるが、利用者の口座からの代金引き落しは、即時ではなく数日後に
行われるものが少なくない。端末機の設置場所としては、ガソリンスタンド,ス−
パ−マ−ケットが多い。アメリカでは、近年大手カ−ド会社による大規模なシステム
の構築が図られている。Visa社は、全米最大の銀行POSネットワ−クであるInterlink
を買収し、自社カ−ドを利用可能とすることにより全国規模のサ−ビス展開を行って
いる。
ヨ−ロッパにおいては、設置台数の増加率がやや鈍化のきざしをみせているとはい
え、1991年末時点で90万台を超えるPOS端末機が導入されている。
スペインは、ヨ−ロッパのなかで最も端末機台数の多い国であり、複数の国内
ネットワ−クが提携することによって全国規模の利用を可能にしている。しかし、
全取引金額の50%以上はマドリ−ドおよびバルセロナに集中しているほか、端末機
1台当たりの処理件数も平均1件/日であり、利用率は低い模様である。
フランスでは、1990年代に入って、不正行為等を防止するためにICカ−ドを
銀行POSに導入する動きがみられた。1992年末には大多数の端末機がICカ−ド
に対応可能となっている。端末機1台当たりの処理件数は平均16件/日を超えて
おり、利用率が高い。
イギリスでは、バ−クレイズ銀行が推進するカ−ドサ−ビスと、ミッドランド銀行
やナショナルウェストミンスタ−銀行等のグル−プによるSwitchと呼ばれるカ−ドサ
−ビスが実施されている。Switchにおいて利用されるカ−ドは、ATMからの現金引出し
や小切手振出保証の機能も保有しており、銀行POSを利用して支払いを行った際には、
オフライン方式で数日後に代金引落しが行なわれる。
フィンランドでは、1985年に銀行POSの導入が始められて以来、その利用が急
速に拡大しており、近年においても、1989年に1万1000台であった端末機
設置台数が、1991年には2万6000台に増加し、取引件数も倍増している。
主要なカ−ド発行主体は銀行であるが、小売業者等によるものもある。
一方、日本では、POSシステム自体は1970年代後半から導入が始まり、84
年に端末
数が1万台を超え、88年には10万台を超えている。今後さらにPOS端末機数が
増加されることが予測されるので、銀行POSも増加するのではないかと予測される。
日本で、個人が利用できるカ−ドを用いたキャッシュレス決済方法には、前払いの
プリペイドカ−ド,即時払いの銀行POS,後払いのクレジットカ−ドがある。それぞ
れのカ−ドは、異なったメリットを持っているが、企業にとっては銀行POSは即時入
金となるのでメリットは大きいと思われる。
日本では、銀行POSの利用は依然低水準にあり本格的な普及には至っていないのが
現状である。欧米の場合には、個人でも小切手取引が多いため、金融機関
では小切手取引の抑制を図り、事務処理を軽減したいとの要望が強く、銀行POSを
小切手に代わるものとして積極的に推進している。また購買者にとっても、小切手より
使いやすいことなどから一般に普及しつつあると思われる。
日本では、決済に関する社会的背景が欧米諸国とは異なるが、銀行POSは売上げ代
金相当額等が即時入金されるなど販売者にとって大きなメリットがある。逆に、普及
しない問題点としては、消費者にとってキャッシュレス以外にこれといったメリットが
ないこと、また小売店側の設備費用等の負担が大きいこと等が挙げられている。し
かし最近は、マ
−ケティングのため等からPOSシステムを導入する小売店が増加していることから、
設備費用等の負担はそれほど問題にならなくなるのではないだろうか。