山本洋輔 総合政策学部3年
大井暁道 総合政策学部3年
岡部研究会研究報告書
1999年度秋学期(2000年2月改訂)
本論文作成にあたっては、丁寧で懇切なご指導をして下さった岡部光明教授、有益なコメントをして下さった岡部研究会のメンバーに深く感謝したい。
電子メールアドレス: 山本 s97015yy@sfc.keio.ac.jp 大井
s97168ao@sfc.keio.ac.jp
設備投資の動向は、経済全体の短期的変動を左右するのみならず、長期的な成長力を規定する要因である。こうした設備投資がどのように決定されるかに関しては、従来から様々な要因が指摘されているが、本稿では、それらのうち近年とくに重要視されている二つの要因(資産価格の変動、メインバンク関係)をとりあげ、それらの影響について実証分析を行った。
第1部では、1980年代後半以降の株価・地価などの資産価格の大幅な変動が、設備投資の変動に及ぼした影響を実証的に分析した。ここではまず、そうした影響の波及経路を整理し、それぞれの波及経路が現実にどの程度重要性を持つのかを先行研究の結果を踏まえつつ定量的に検討した。その結果、(1)株価の変動に伴う影響のうち、資金調達コストの変化と企業のバランスシートの変化による影響は、どの企業群(大企業製造業、中小企業製造業、大企業非製造業、中小企業非製造業)においてもさほど大きなものではない、(2)地価の変動に伴う影響は、担保価値の変化と企業のバランスシートの変化を通して、主として中小企業にあらわれた可能性が高い、(3)株価・地価の変動による金融機関のバランスシートの変化が、貸出態度の変化を通して企業の投資に影響を及ぼした可能性もある、などの結論が得られた。そこで次に、実際に地価の変動が、こうした波及経路を通して設備投資の変動にどの程度寄与していたのかを定量的に把握するために、設備投資関数を推定して検討を加えた(計測期間:1986年第1四半期〜1998年第4四半期、説明変数:利潤率、利子率、地価、バランスシート要因としての長期債務/収益比率)。この結果、大企業に関しては、地価の上昇時、下落時を通して、いずれの波及経路に関してもその影響は限定的であることがわかった。一方、中小企業に関しては、(1)地価の上昇時においては、主として担保価値の上昇という波及経路を通して設備投資が促進されたこと、(2)地価の下落時においては、担保価値の下落よりも企業のバランスシートの悪化という波及経路を通して、設備投資を相当程度下押ししてきたことが明らかとなった。このように、企業のバランスシート問題が、設備投資に大きな影響を及ぼしている以上、資産の流動化を促すための制度の整備など、政策的な対応が必要である。
第2部では、日本の金融システムの大きな特徴であり、また設備投資に大きな影響を与えると考えられるメインバンク制に焦点を当て、それが企業の設備投資に与える影響を扱った。企業の側から見た場合、メインバンク関係を維持することは、情報の非対称性の問題を軽減するため、柔軟な資金供給が受けられることが指摘できる。すなわち、企業にとっては、(1)将来の資金需要に備えて潤沢に内部資金を備えておく必要性が(メインバンクを持たない場合と比較して)小さいこと、(2)また企業が投資の決定を行う際に内部資金の多寡がその決定に及ぼす影響が小さくなること、を意味している。つまり、投資に対する内部資金の制約の強さがメインバンクの有無によって変わり、このためメインバンク関係が設備投資に影響を与えることになる。これを実証的に検証するため、企業の財務データを用いて、投資額を内部資金量とメインバンク関係の有無などで回帰分析を行った結果、メインバンクを持つ企業と持たない企業では、投資に対する内部資金の制約の強さに差があるということが判明した。メインバンクが投資にプラスの影響をもたらすことを示す研究として、Hoshi, Kashyap and Sharfstein (1991)、岡崎・堀内 (1992)、森 (1994)があるが、本稿ではより最新のデータを加えてもこれらの結果と整合的な結論が得られた。次に、その内部資金制約は、年代とともにどのように変化しているのかを考察した。その結果、90年代に入ってメインバンク関係のこうした機能は以前と比べて弱まっていることを示すとともに、機能の弱体化を引き起こしたひとつの原因は、投資水準の低下であると考えられることを示した。メインバンク制の今後については、今後も中小企業や成長企業にとって有益であり続けると考えられる。
【キーワード】 設備投資、資産価格の変動、エクイティ・ファイナンス、土地担保、バランスシート問題、メインバンク制度、内部資金制約、エージェンシーコスト