5.今後の経済成長力について


5.1 3要因の検討
5.2 政策提言

5.1 3要因の検討

以上の実証的な分析からの重要な結果は、 経済成長に占める3要素の割合は (1)資本寄与、(2)TFP成長率、(3)労働力寄与の順序で 大きいということである。 そこで、今後の日本経済の経済成長力を考えるために これらの3つの要素の方向についてごく簡単に検討する。 詳細な検討は今後の研究課題としたい。

  1. 資本寄与
    資本ストックの成長率はは趨勢的に低下傾向にある。 この原因は、製造業の海外移転、貯蓄率の低下による設備投資の減少にある と考えられる。
  2. TFP成長率
    導入技術の減少、新技術開発が重要となっているが 図3 からわかるように最近の不況下での研究・開発投資の増加率の低下、 技術進歩の遅いサービス産業の増加による経済のサービス化により、 技術進歩率を表すと考えるTFP成長率も低下傾向にあると考えられる。
  3. 労働力寄与
    人口の高齢化、少子化による労働力人口の減少より 低下傾向にあると考えられる。

以上の理由から3要因はいづれも低下傾向にあると考えられるので 日本経済の成長力は低下してきている可能性が大きいといえよう。

5.2 政策提言

以上を踏まえて考えると、 日本経済にとって経済成長率の維持が必要とされるならば 次のような政策が必要になってくる。
(経済成長は必要としないという考え方の中には、 経済政策の目的が人々の購買力拡大にあるとするならば、経済成長よりも、 物価を低下させる政策である内外価格差の是正の方が望ましいという 議論もありうる。これらの議論の詳細にはここでは立ち入らない。)

  1. 資本寄与
    国内製造業の海外移転、サービス化による「穴」を 海外企業の国内への対内直接投資を促進することにより埋めること。
  2. TFP成長率
    研究・開発投資を活発にすること。 この観点から見て最近の橋本内閣の科学技術促進政策は 重要であると考える。
  3. 労働力寄与
    労働力人口を増やすために、これまでに労働力として必ずしも重視されていなかった 女性、高齢者の社会進出を促進すること。 そのためには職場環境や労働市場の整備が重要課題になる。

以上