概要


1.日本経済はバブル崩壊以降、これまでにない低成長率にとどまっている (1992-95年度の4年間の成長率は年平均わずか0.7%である)。 このため、日本経済の潜在的な成長率が近年低下したのではないか、 との議論がかなり見られるようになっている。 本稿では、経済成長率の要因分解の方法である 成長勘定(Growth Accounting)の方法を用いてこの問題を検討した。 すなわち、まず1971-92年のデータ(他の諸研究に比べより最近年を含む) を用いて、経済成長率を資本寄与、労働力寄与、 そしてそれ以外の要因である全要素生産性(Total Factor Productivity:TFP) 成長率の3要因に分解し、それらの大きさを推計した。 すると、この期間の経済成長率(年率)4.1%に対して、 資本寄与が3.0%(経済成長率に対する寄与率は74%)と圧倒的に大きく、 労働力寄与が0.3%(同7%)、TFP成長率が0.8%(同19%)との結果が得られた。 つまり、経済成長の要因としては (1)資本寄与、(2)TFP成長率、(3)労働力寄与の順であることが明らかになった。 そしてとくに1980年代半ば以降では、TFP成長率の寄与度が高まっていることも 判明した。 これらの結果は、概ね他の諸研究の結果にも共通している。

2.上記の枠組みをもとに、今後の経済成長率を展望すると、 (1)資本寄与が製造業の海外移転、貯蓄率の低下などによる 資本ストック成長率の低下から低下傾向にあると考えられること、 (2)TFP成長率が低いと言われるサービス業のウェイト増大の影響を 考える必要があること、 (3)労働力寄与は人口の高齢化、 少子化が原因となる労働人口の減少から低下傾向にあること、 から、低下傾向を示す可能性が大きいと考えられる。 すなわち日本の経済成長力(潜在成長力)は低下しつつあると いうことになる。

3.このため、もし経済政策の目標の1つとして経済成長率の維持を重視する場合には、 資本については他国からの製造業の対内直接投資の受け入れを、 労働力については高齢者、女性の社会進出を促すような労働市場の整備を、 そしてTFP成長率については研究開発投資の促進を、 それぞれ導くような政策が必要である。


【 キーワード】
成長勘定の基本式、経済成長率、資本寄与、労働力寄与、 全要素生産性(TFP)成長率、 資本分配率、今後の経済成長力