(付論)メインバンク・システム

 米国では機関投資家を中心とした資本市場によるコーポレート・ ガバナンスが機能してきたのに対し、日本においてはこのようなコーポレート・ガバ ナンスは機能しなかった。というのも、戦後の間接金融優位の状況下では、日本企業 は急増する資金需要の大部分を、銀行を中心とする金融機関からの借入金で賄ってい たからである。資金調達企業の立場から見れば、銀行融資以外の資金調達手段は未発 達であったから、生産能力を急激に拡大するために銀行の融資に依存せざるを得な かった。このため、日本では、本来資本市場が担うべきコーポレート・ガバナンスの 役割を「メインバンク」と呼ばれるシステムが担っていた。メインバンクとは、企業 への貸し出しのみならず、決済口座を介した財務状況の把握、役員派遣などを通して 企業との間に金融・情報・経営における多元的関係を築くことによって企業に対して 強い影響力を持つ銀行のことで、相互に株式を持ち合うことによって、企業の安定株 主としての役割を果たすと同時に、監視・介入機能の多くが委ねられた。メインバン クは、企業の成長を支援する立場から、経営が順調な場合は、経営に口を挟まず経営 陣に対する裁量権の幅を広くすることで企業との良好な関係を維持しようとし、また 企業の経営状態が悪化した場合には、再建、再成長のために他の銀行よりもより多く の融資を通じて、経営的・資金的援助を行った。

 このようなメインバンクによる企業監視は、1970年前半まで続い た。しかし、その後日本経済の低成長化により資金需要が鈍化し、80年代後半から日 本企業によるエクイティ・ファイナンス(時価発行増資、転換社債、ワラント債な ど)の活発化によって直接金融の比重が高まり、銀行貸出が以前ほど重要ではなく なったため、メインバンクによる監視機能は低下した。さらに、バブルの崩壊によっ て銀行が大量の不良債権を抱えたことにより、メインバンク自身の経営的・資金的能 力が悪化したことも監視機能の低下を招く大きな原因となった。



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