次に、資本移動の自由について、考えてみたい。
東アジア地域においては、1980年代後半より直接投資という形での実物資本の 移動が顕著になってきた。東アジア域内の直接投資は、プラザ合意以降の急速 な円高に伴い、日本のアジアNIEs向け直接投資を中心に急拡大した。しかも、 近年ではアジアNIEsが東アジア地域への直接投資国としての性格を強める等、 域内での資本還流が定着しつつある(資 料4,資料5)。
ここで、日本、香港を除く直接投資の純流出入額をみると、台湾に続いて韓国 も1990年に出し手に転じ、受け入れ国ベースでみると、アジアNIEsからASEAN および中国への直接投資が増大している。また、直接投資の性格も変わってき ている。アジアNIEsのASEANおよび中国への直接投資は、当初労働集約型産業 への投資が中心であったが、90年代に入ってからは石油化学やインフラ・プロ ジェクト等の大型投資や商業のサービス産業向け投資等も増加してきたと 言われる。
また、Goto and Hamada(1994)は、データの利用上の制約を考慮に入れつつ も、東アジア諸国に流れ込む外国直接投資のGNP比がドイツやフランスの同指 標に比べて高いこと(ここではインドネシア、マレーシア、フィリピ ン、タイのデータが挙げられている。)から、東アジア地域における資本移動 の自由性は高く、同地域が共通の通貨圏を形成するには十分な理由がある、と している(資料6)。
以上、東アジア地域における生産要素の移動性についてまとめると、資本移動 の自由性は高まっているものの、労働移動の自由性については部分的な高まり しか認められないことが分かった。従って、生産要素の移動性という基準は全 体的に満たされているとは言えない。