概要


日本の銀行における経営環境の変化は、ここ数年、目覚しいものがある。外 国金融機関、異業種企業の流入を妨げてきた規制や技術的諸問題は、金融制度 改革による規制の緩和、技術の大幅な革新によって取り除かれようとしている。 また、資本市場の発展等により、企業の資金調達における直接金融の割合が高 まっており、銀行の収益構造は大幅に変わってきた。バブル期に大量発生した 不良債権はいまだに銀行の経営を圧迫している。これまで大蔵省の指導の下、 いわゆる護送船団方式によって守られてきた日本の銀行は、かつて経験したこ とのない厳しい競争に晒されることが予想される。

その中において、これまで銀行がさほど重要視していなかったと言われるリ テール部門(個人や中小企業を主な対象とし、小口大量の取引を行う業務形態。 代表的な商品は個人向け住宅ローンやカードローン、教育ローン等。香川、徳 田、北原(1995)による。)に成長と収益の源泉を求める動きが見られるように なった。ここ数年の情報技術の高度化は、銀行の顧客に対する取り組みを変容 させている。それが顕著に表れているのが、ネットワークを利用したサービス の進展である。主な個人顧客向けのサービスとしては、1995年からテレホンバ ンキングサービス(電話を利用し、銀行との取引を行うサービス。詳細は後述) が、1997年からインターネットバンキングサービス(インターネットを利用し て銀行との取引を行うサービス。詳細は後述。)が一部の銀行で順次開始され た。

しかしながら、サービスが顧客に認知され、浸透しているとは言い切れないで あろう。確かに「銀行に行かずにサービスを受けたい」顧客ニーズがある、と いうのはよく言われることである。しかし日本の銀行には、先進各国に比べ、 発達したATM網、公共料金や年金等の自動振込サービスが存在する。そのよう な環境下で、本当にインターネットバンキング等のサービスが必要なのであろ うか。また、一部の銀行と述べたように、これらのサービスを提供していない ところや、サービスを限定しているところ、サービスのPRにさほど力を入れて ないところ等、銀行によってその対応がかなり分かれているという印象を受 ける。

そこで本稿では、こうしたネットワークを利用した個人顧客向けサービス「ホー ムバンキング」について、特にその背景にある部分に着目して現状を整理、今 後の銀行経営戦略としての位置付けに着目して「ホームバンキング」の今後の 展望について述べていきたい。

第2章では、まずホームバンキングがどのようなものかを定義する。そして近 年その取り組みが活発になってきたテレホンバンキング、インターネットバン キング、さらに独自のネットワークを介し専用ソフトを家庭のパソコンに取り こんで行うパソコンバンキングについて、その仕組みを解説する。キャプテン 端末、FAXによるホームバンキングサービスについては、日本の銀行において は現在個人顧客向けサービスとしてあまり取り組みがなされていないため、本 稿では扱わないことにした。さらに銀行での取り組みが活発になってきたのは なぜかその要因を銀行の環境の変化によるものであるとの認識に立ち、述べて ゆく。

第3章では、実際銀行で行われているサービスを整理し、その結果から 銀行のホームバンキングでの取り組みの差を検証する。

第4章では、ホームバンキングの課題として、ホームバンキングのメリット、 デメリットを述べた上で、顧客獲得への課題、この先起こるであろう技術的進 歩とホームバンキングの将来性、欧米におけるホームバンキングの現状を述べ る。そして、公的政策の在り方、個人顧客サービスの在り方、今後の銀行の戦 略について提言していく。