慶応大学教授 岡部光明

インターネット専業銀行とは
インターネット専業銀行(internet bank)とは、銀行の一つの形態であるが、通常 みられるような銀行店舗は持たず、預金の受け入れや払い戻し、資金の口座振り替え などすべての取引をインターネットを通して行う銀行のことである。これは、近年の インターネットの急速な普及によって誕生した新型の銀行であり、その英語名も、 internet bankのほか、internet-only bank、online bank、e-bankなど様々な表現が 用いられていることにそのことが現れている。

海外の動向と日本の動向
その第1号は、情報技術で先行する米国で1995年に誕生したが、米国や欧州で急速に 設立が増えてきたのは、ここ1−2年のことである。日本でも、今年(2000年)10月 に初めて一つのインターネット専業銀行が営業を開始している。この銀行形態は、米 国を含むいずれの国においても、まだ草創期にある。このため、業務の内容は、各銀 行毎にかなりの差異があるだけでなく、経営陣の判断に基づき継続的に変化している のが現状である。

その特徴
インターネット専業銀行は、共通する二つの特徴を持っている。第1に、それは小規 模の本店事務所以外には店舗を必要としないため、従来のような店舗の維持費や人件 費が大幅に削減されるという、経営コストの面で大きなメリットがあることである。 銀行取引をこのようにインターネットだけを用いて行う場合には、支店窓口で行う取 引に比べて格段にコストが安いだけでなく、電話による銀行取引(telephone banking)や現金自動預入払出機(ATM, automated teller machine)を操作すること による銀行利用に比べても、費用がはるかに小さくて済む。

このため、銀行は、その分を利用者に還元することができる。例えば、受け入れる預 金に対しては、従来の銀行以上の預金金利を提供したり、あるいは口座振替の手数料 もより安くする、といったことが可能であり、現にそれが広くみられている。

第2の特徴は、銀行業務を地理的な制約や時間的な制約から開放していることである 。つまり、インターネット専業銀行の場合には、従来の銀行の場合のように支店店舗 がどこに存在するかといったことは問題にならない。また、原則として24時間営業 が可能になる。このため人々は、昼間は働き、銀行取引は自宅に帰ってから夜になっ て行う、といったことができるので、利用者にとって利便性が高い。

最近の動向
以上のように、利用者にとってこれまでにない幾つかの長所を持つため、各国におい て、インターネットを利用できる顧客層の間で急速にその利用が広がる兆しがみられ る。

ただし、インターネット専業銀行が提供する銀行サービスは、現在のところ少額の決 済サービスが中心であり、住宅資金の借り入れなど従来の銀行店舗で提供される幅広 いサービスの品ぞろえと比べれば、なお見劣る面がある。このため、インターネット 専業銀行では、例えば、証券会社と提携し、証券の売買をする場合の資金決済も行え るようにするなど、提供できるサービスの種類を増やす動きを強める傾向にある。

今後の予想と課題
この新型銀行への参入競争には激しいものがある。またその業務は、現在のところ、 預金の受け入れと決済という比較的単純な業務が中心であるため、事業としての採算 性が必ずしも高くなく、この分野から撤退するといった動きもすでに見られる。

しかし、長期的にみると、インターネット専業銀行という形態をとるか、それとも従 来の銀行がインターネットの利用を一層拡大する形態をとるかにかかわらず、銀行の 顧客サービスにおけるインターネット依存度合は一層高まることは、間違いない。こ のため、インターネットを利用した銀行取引が安心して行えるためのルールを作った り、また犯罪行為を防止する仕組みを整えたりすることが必要である。

    (NHK国際放送、22か国語による翻訳放送の原稿。2000年11月16日放送)

前のページへ戻る
copyright 1995-2007 Okabe Mitsuaki, All rights reserved.