付論

  株式ボラティリティによる倒産確率推定 ( 山口陽平


今回、都市銀行の統廃合をオプション・アプローチという観点から倒産確率を推定し、評価する。近年、[1]齋藤、[2]森平が株価から、[3]家田、[4]家田・吉羽は社債から倒産確率推定を行うなど、従来の財務諸表からデータを集め倒産確率を推定する手法とは異なり、資産価格から倒産確率を推定する手法が考え出された。[1]齋藤は97年のみを推定したが、今回は彼の手法を活用し、その後98年〜99年末までの倒産確率を株価から推定した。この倒産確率により、日本の都市銀行を1997年〜1999年にわたって評価する。

しかし、今回は、倒産確率を[1]齋藤のような形で計算しなかった。図1を参照すると分かるように、株式ボラティリティと倒産確率の間には非常に緊密な非線型の相関関係がある。ボラティリティが040%までは、倒産確率はほぼ0%である。従って、ボラティリティが040%に収まっているなら、たとえ、ボラティリティが増加したとしても、倒産確率は限りなく0%に近い水準なのである。しかし、40%を超えると急激に倒産確率は上昇し始めることが良く分かる。

この理由は、株価ボラティリティが低いということは、株価が安定的ということであり、ひいては経営が安定的であると考えられるからである。逆に、ボラティリティが高いならば、株価は不安定であり、その場合、企業経営の資本が劣悪であることになり、将来の不確実性のリスクが上がってしまうのである。すなわち、そのように、高いボラティリティを株が示すということは、企業の経営先行きに何らかの不安定要因があるということである。なぜなら、株価ボラティリティは株価の将来に対する不確実性を表しており、株価に企業の情報が含まれているならば、株価ボラティリティは企業の経営に対する将来の不確実性を表していると考えることが出来るからである。

 

 
以下この考えに基づき、株価ボラティリティを求め、それを表1と対応させる形で倒産確率推定を行う。従って、実際に倒産確率という値を出すのではなく、銀行間の相対的な倒産可能性を大まかにつかむ程度に留めることを予め断っておく。

結果は図2〜図6を見ていただければ分かるように、主な特徴として、@971229日、981229日に各銀行の株価ボラティリティが急激に上がったこと、A統合を発表した銀行はその後、株価ボラティリティがほぼ完全に一致したということ、つまり、倒産確率もほぼ一致したということ、B統合後、東海銀行、あさひ銀行の倒産確率が上昇したこと、C大和銀行は他の都銀と比較しても極めて高い倒産確率を示していることが挙げられる。

@の理由には97年が北海道拓殖銀行の破綻、98年には日本長期信用銀行の特別公的管理発表などを通じて信用リスクが高まり、株価ボラティリティが急激に引き上げられたことが挙げられる。特に、銀行はシステミック・リスクを抱えているためこのような現象が生じたと考えられる。

Aの理由には、統合を発表した時点で、将来に対する不確実性が統合予定の銀行同士で一致したと考えられることが挙げられる。その結果、株価ボラティリティも一致し、ひいては倒産確率も一致したのである。実際に持ち株会社化するのは先のことではあるが、統合を発表した時点で、将来に対する不確実性は統合予定の銀行同士で一致すると考えることは自然である。今回使用した倒産確率モデルは株価データを重要な指標として倒産確率を推定している。従って、統合する銀行同士の株式には株主は同様のリスクを想定して株式保有行動をとった結果株式ボラティリティはほぼ完全に一致してしまったのである。

 

−参考文献−

  1. 斎藤啓幸(1997)『オプション・アプローチによる銀行の倒産確率推定』慶應義塾大学湘南藤沢学会 
  2. 森平爽一郎(1997.10)『倒産確率推定のオプション・アプローチ』証券アナリストジャーナル
  3. 家田明(1999)『社債流通価格にインプライされている期待デフォルト確率の信用リスク・プライジング・モデルによる推定−改良型ジャロウ・ランド・ターンブル・モデルを用いて−』「金融研究」第18巻別冊第1号、日本銀行研究所
  4. 家田明・吉羽要直(1999)『社債価格にインプライされている期待デフォルト確率の信用リスク・プライジング・モデルによる推定(2)−ロングスタッフとシュワルツのモデルを用いて−』「金融研究」第18巻別冊第1号、日本銀行研究所                                                                                                                                                                                                    都市銀行の株価ボラティリティの推移                                       
                 
                  
 
 
 
  ・ボラティリティ:σ(ヒストリカル)
n+1:観測データの数
:第i期間の期末時点での株価(i=0,1,2,,n
:1期間の長さ(年単位)

  



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