日本企業の資金調達構造と

コーポレート・ガバナンス

 

藤井 恵

総合政策学部3年  

 

岡部光明研究会研究報告

2003年度春学期(2003年9月改訂)

 

本稿は2003年度春学期岡部光明研究会報告書の改訂版である。データの収集に際しては山之内七重氏(慶應義塾大学総合政策学部2年)と共同で行った。本稿作成にあたっては丁寧で親切なご指導をしてくださった岡部光明教授(慶應義塾大学総合政策学部)に深く感謝したい。また岡部研究会のメンバーには研究会において有益なコメントをいただき感謝している。有益なアドバイスをくださった竹中平蔵慶應義塾大学客員教授(経済財政・金融担当大臣)、および同研究会のメンバーにも感謝したい。データの出所と作成方法に関して熱心かつ有益なコメントを下さった米澤康博教授(横浜国立大学経営学部)にもこの場を借りて改めて感謝の意を表したい。しかしながら本稿にあり得べき誤り、主張の一切の責任は言うまでもなく筆者個人に帰するものである。

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概要

 

日本経済の構造転換や成長率低下との関連で近年、企業経営の改善がコーポレート・ガバナンスという視点から活発に議論されている。コーポレート・ガバナンスとは結局「企業をいかに効率よく経営する仕組みにするか」という問題である。わが国においては、株式持合いやメインバンクといった日本型コーポレート・ガバナンスに代表される慣行により、株主価値をさして重視しない傾向が強いため、それが企業経営の効率化を妨げているのではないかと指摘されている。本稿では、企業の所有構造が企業経営の効率性(その集約としての株主価値)にどのような影響を与えているかを実証的に検討したものである。

具体的にはトービンのqで測った株主価値に対して、株式所有構造、負債比率、メインバンクの存在がどのような影響を与えているのかを全国一部上場企業を対象にクロスセクション分析を行った。計測時期は、バブル期である1989年(501社)、最近時点である1999年(499社)の2時点である。その結果、次の点が判明した。@負債発行は経営者の行動を規律づける機能を持っている。A外国人・金融機関・その他法人などの大口株主による株式保有はそのモニタリング活動を通じて近年株主価値を高める役割を担っている。B大口株主のうちとくに海外投資家による株式の保有は企業価値を高める上で有効に作用している。C金融機関による株主としてのモニタリング活動は企業価値を高めるものであり、近年では重要性を増してきている。一方、Eメインバンクは過剰な融資(追い貸し等)を通じて企業経営を非効率的にする方向に作用し、株主価値にマイナスの影響を与えている。次に、これらの結果の頑健性を確認するため、サンプル企業を収益率の高い企業(100社)とそれ以外の企業(400社)に分類し、同様の分析を行った。その結果、収益率の高い企業は、上記の規律づけが強く働いていることが実証された。以上の結果を踏まえると、日本企業の効率性向上のためにはストック・オプション制度の導入、外国人投資家に対して不透明感の強い日本の会計制度の是正、などが必要である。

 

キーワード

コーポレート・ガバナンス、トービンのq、株主価値、クロスセクション分析




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