銀行の経営資源とその役割に関する研究

〜情報システムのアウトソーシングとメインバンクのコーポレートガバナンス機能〜

 
 
 

山本(島元)洋輔 総合政策学部4年
大井暁道 総合政策学部4年

岡部研究会研究報告書
2000年度秋学期(2001年2月改訂)



 本論文作成の際に、丁寧で懇切なご指導をして下さった岡部光明教授、有益なコメントをして下さった岡部研究会のメンバーに深く感謝したい。
電子メールアドレス: 山本 s97015yy@sfc.keio.ac.jp 大井 s97168ao@sfc.keio.ac.jp

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概要

  銀行とは、労働、資本、技術、経営者、経営ノウハウなど多様な資源を一つに結束することによって、金融仲介機能や企業に対するモニタリング機能を果たす組織体である、ということができる。本稿では、銀行における経営資源の一つの組み立て方法(情報システムのアウトソーシング)、および銀行の企業に対するモニタリング機能(銀行経営者の責任)の二つの問題をとりあげ、理論的整理をするとともに若干の実証分析を行った。

 1990年代の後半あたりから、地方銀行や一部の都市銀行によって、行内の情報システムの開発・運用・保守といった一連の業務を外部のベンダーに委託する、という形態でのアウトソーシングが一般的に行われるようになってきた。第1部では、こういった近年の事例を組織の経済学と経営戦略論の立場から評価した。前半部では、理論研究と事例研究のサーベイをし、アウトソーシングする業務を決める際に検討すべき点と契約をする際に留意すべき点として、以下の3点を指摘した。すなわち、(1)アウトソーシングする業務を決める際には、当該サービスの生産費用の削減効果だけでなく、取引費用の増加も考慮する必要があること、(2)市場における差別化への貢献度が高いシステムはアウトソーシングには向かないこと、(3)アウトソーシングする際には業務の標準化、業務に対する評価基準の明確化、成功報酬型の料金の支払方法の導入、などを行うことによって、取引費用を抑制する仕組みを整える必要があること、この3点である。後半部では、以上の点を踏まえた上で事例を検討し、以下の3つのことを指摘した。第1は、勘定系と情報系の情報システムの開発・運用・保守を一括してアウトソーシングしているケース(単独銀行によるアウトソーシングで行われている)では、長期的に見た場合に取引費用の増加、市場における差別化の困難化という問題を引き起こす可能性があることである。第2は、複数銀行が、勘定系の情報システムのみを共同でアウトソーシングする一方、情報系の情報システムを引き続き社内で管理するケースでは、取引費用の増加をそれほど引き起こさずに生産費用の削減を期待できることである。第3は、上記のいずれの場合においても、アウトソーシングを有効に活用するためには、以下の2つの対応が必要となることである。一つは、連邦型の情報システム部門の組織体制(全社的に共通利用できる情報システムを扱う情報システム部門、および事業部ごとに設置された情報システム部門、の2種類の情報システム部門を持つ組織体制)を採用することである。もう一つは、情報系の情報システムを変更する際に勘定系の情報システムに変更を加えなくてもすむように、3層型のアーキテクチャ(端末群から入力された情報が、ミドルサーバーを通して同時に情報系の情報システムと勘定系の情報システムに送られる仕組み)を採用することである。

 第2部では、メインバンクの一つの大きな機能であるとされる、コーポレートガバナンス機能について分析した。本稿では、Kang and Sivdasani (1995)と同様に、企業のステークホルダーによる経営への規律づけは、収益が悪化した場合の、企業の社長の非定例交代によって捉えられると考え、そうした非定例交代が起こる確率の大小によって、ガバナンスの有効性を評価した(社長の非定例交代が起こる確率が高いほど銀行が融資先企業を規律づける度合いが大きい)。そして、メインバンク関係を有する場合、その確率がどの様に異なり、どのように変化してきたかを見ることによって、メインバンクのコーポレートガバナンス機能の時系列的な変化について捉えた(分析対象期間は1982年から1999年)。具体的には、logitモデルを用いて、社長の非定例交代の有無を、企業の業績、メインバンクの有無、株式保有の集中度などの変数で回帰分析を行った。その結果、(1)メインバンク関係はバブル期以前(1984年頃まで)は有効なガバナンス機能を持っていたこと(先行研究と同様の結果)、(2)バブル期以降(1988年以降、特に1994年以降)は明らかにその機能水準が低下しており、有効なガバナンス機能を果たしていないこと、(3)メインバンクのガバナンス機能の空白化を相殺するかたちで、株式のブロックホルダー(まとまった規模の株式を保有する投資家:本稿では上位10位までの大株主で捉えた)のガバナンス機能が高まっていること、が判明した。1990年代半ば以降、株式の持ち合いが徐々に解消する傾向が見られ、また、近年の会計制度の変革(持ち合い株式の時価評価)はその傾向を加速しつつある。このため、メインバンクやブロックホルダーに代わるガバナンスの担い手(様々な主体間で分担したガバナンス)が構築される必要がある。

【キーワード】 銀行、情報システム、アウトソーシング、組織の経済学、取引費用、経営戦略論、メインバンク、コーポレートガバナンス、日本的システム、ブロックホルダー




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