1.はじめに-分析の目的


日本経済はバブル崩壊以降、これまでにない低成長率にとどまっている (1992-95年度の4年間の成長率は年平均わずか0.7\%である)。 このため、日本経済の潜在的な成長率が近年低下したのではないか、 との議論がかなり見られるようになっている。

本稿は日本の経済成長率を 成長勘定の方法を用いて、 1972-92年の経済成長率のデータを 資本寄与、労働力寄与、TFP成長率の3つに分解し、 それらの大きさを推定することにより、 今後の日本経済の経済成長力を分析することを 目的としている。 前論文−静永・隅田(1995)では 技術進歩率を表していると考えられる 全要素生産性(Total Factor Productivity:以下ではTFPと略す)成長率を 中心に分析したが、 本稿ではTFP成長率だけではなく資本寄与、労働力寄与についても 考慮する。

構成は、2「成長勘定の基本式」 で分析の中心的な道具である成長勘定の基本式について導出した。 3「1970-92年のデータへの適応」 ではその式による71-92年のデータの分析結果をいくつかの表とグラフとともに 提示した。 4「推計結果の比較検討」 ではその分析結果を他の研究と比較することによって批判的に検討した。 そして最後の5「今後の経済成長力について」 では、以上の分析結果をふまえて、 もし経済成長を経済政策の目的とするのであればどのような政策を 行えばよいのかをごく簡単にではあるが提言としてまとめた。

なお付論として日本の高度成長期の経済成長の分析としてよく知られている Denison=Chung(1976)の主要な結果について述べた。